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IT技術やソフト、アプリのおかげで、素人がいわゆるデザインという領域において、それなりのことをできる環境が整ってきた。例えば、写真。加工の仕方で、素人であってもそれっぽい画像をインターネット上に掲載できるようになった。HP制作においても、無料テンプレートという選択肢が台頭。独自ドメインや広告の非表示という一定ラインを据えたとしても、そうであっても数万円でこういったHPを立ち上げることができる時代に入りました。
そして私にとっての最たる驚きは、印刷物の入稿方法の変化です。以前は、印刷所に依頼する入稿データはイラストレータで作るしかなく そのことが このグラフィックデザインの領域を近づきがたいものとしていた。わざわざグラフィックデザイナーに依頼するほどではないものも、印刷所に相談する場合は入稿データがイラストレータ形式であることを確認される。それが、最近はワードやパワーポイントでデータを作り、そのまま入稿もしくはPDF化して入稿できますと謳うオンデマンド印刷サービスが台頭している。イラストレータ形式でなくても、アウトライン化されている云々ではなくても、入稿できる。試しに名刺の印刷を依頼してみたところ、紙はヴァンヌーボを選べ、その仕上がりは私には十分なものでした。
印刷会社にしてみれば、当然の戦略ともいえます。これまでは主にデザイナーや広告代理店が主なクライアントであっただろうが、その先の個人/法人を直接の顧客にするための一手という営業戦略。誰もが気軽に印刷依頼をできるようにと門戸が開かれたのです。私のようなサービスの受け手からすれば、印刷会社からの歩み寄りは非常に有り難い。データをPDFにして保存する方法や、ワードやパワーポイントでのテンプレート無料DLサービス、そのテンプレートを開いた際にトンボマークの表示方法など、踏むべき手順や確認点が非常に分かりやすく示されていたことも印象的でした。きちんとサービスとして確立されていると感じられます。
一度そういったオンライン印刷サービスを利用すると、無料メールマガジンの購読対象となり、どんなものかと読み進めると夏に検討すべきノベルティ、効果的な紙面の作り方、季節のお便りを作るべきか否か、ひびくキャッチコピーの考え方、ブログを書く際の留意点など。その都度届くメールは、時にサンプルコストまでも網羅し、それらに沿って進めればそれなりのものができそうという期待感で胸が膨らみます。

ゴール設定の仕方ややりようによっては自分と周囲の友人知人で色々なことが十分なクオリティで出来上がることが可能になることがよく分かり、それでもデザインや撮影のプロに依頼すべきというのはどういう時と捉えるか。現時点では、私は以下として受け止めています。
1)目標とする売上規模から逆算して考えた際の妥当性
先行投資になりますが、必要な投資であると言えるためです。
2)会社やブランドイメージを引き上げたいタイミング
お金を投じる際にそれが消費ではなく投資であるなら、その成果物が、費用対効果という指標で最大限に引き上げられていなければなりません。それは、個々人の感じ方や好き嫌いを超えた客観的な一定ラインです。印刷物であれば紙質やサイズ、写真の質(精度、構図、明るさ含め)、見出しの的確さ、情報量、半スぺ等の細部。HPであっても写真のインパクト、動線、テキスト情報等の配置など。お金をかけて制作物を刷新するのは、ブランドイメージの引き上げや確立は必須です。
時たま耳にするのが、「タイミングよく出会ったため依頼した」「あちらからやらせてもらいたいとラブコールがあって」「友人や知人がサービスを提供しているから依頼した」という話。よい人との出会いであればそれに越したことはないのですが、デザインや見せ方には正解がない分、その内容も千差万別であるとも感じます。フラットな目での判断が理想です。
3)国内外展示会へ挑戦するとき
これは言うまでもありませんが、特に海外へ向けた挑戦はHPが必須と感じます。SNSのみで成功するケースもありますが、そちらの方が少数派かなという印象です。
4)少なからず予算があるとき
誰に依頼するかにもよるとはいえ、やはり総じていいものが仕上がると思います。特にホームページは、無料で作れるものまでありますが、それ相応のデメリットがある印象です。
5)メディア露出が増え始めたとき
雑誌やテレビの取材、そしてWEB記事であっても、年に2度でも取材を受けることがあれば、それは兆しかもしれません。メディアが取り上げた際に、いい写真素材があるか、伝わるHPが受け皿としてあるかということは その後の売上を左右し、拡がり方が変わってきます。SNSもいいですが、ホームページの役割は確かに存在します。また、うまく合致した際のメディアからの波及効果は言葉で説明できるものではありません。
6)HPのリニューアル案件
データの引っ越しやSEO対策を考えると専門家に依頼する方が、相対的にスムーズ且つ漏れがない。ネットで調べながら自分で対応してみようと試みるも、データが消えてしまった際のリスクをどうするか、そもそも素人が場当たり的に調べながら進めるには効率も悪い。そして暫くやり進めるも、本人が迷子になったところで依頼される方も大変です。リニューアル案件はプロに依頼することが得策と結論づけています。
7)自分の知らない引き出しからの提案を取り入れる余地がある場合
撮影でいうと構図はもちろん、光の捉え方や小道具、編集方法など その道のプロだからこその経験値があります。とはいえ、そのプロの過去の作品から自社商品に合うかどうかの判断は必須です。制作物でいうと、翻訳依頼をかけた元原稿を、如何に多くの対象に使い回せるか。語尾や言い回しを少し変更して、最大限に活用できるか。翻訳依頼にはコツがあり、かけたコストに対して差が出ます。何が何でもコスト削減ではなく、提案を柔軟に受け入れられるのであれば断然プロへの依頼をお勧めします。


目的の上位に低コストがくるのであれば、社内外でやりくりすることが最善の策です。
過去に、HP構築やチラシ作成などにおいて、理想的なベストではないが現実的に考えるとベストという事例を幾つも見てきました。今回は社内で作る、それでいいんです。また、デザインを取り入れたいと思う気持ちが強いほど、そのチャンスに巡り合うとふと飛びつきたくなります。そのデザインが自社商品にマッチするのか、一考すべきと思います。
少なくとも、決定権を有する人が、その表現が適している/適していないと判断でき、より適した表現とはどういうものだろうと思いを馳せる視点を養っていけるとよさそうです。それを突き詰める必要はありませんが、デザイン理念に関する書籍を数冊は目を通す、信頼できる人を間近に配する若しくは定期的に意見交換をするなど、程よく意識できたら理想的です。


※画像は、富山県砺波市の海岸沿いの公園。海のある風景が新鮮で心地よかったです。
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